PDFがやってきた(2)

1997年7月22日

前回に続き、PDF(Portable Document Format)について考えてみましょう。今回は、マニュアルとしてPDFを使うときに出てくる問題について考えてみましょう。

マニュアルとしてのPDFの使いかた

PDFをマニュアルとして使うには、2つの考え方があると思います。

一見すると同じように思えるかもしれませんが、微妙に違います。
細かく説明すると、前者は紙マニュアルを作成しておいて、その内容をPDF化するということです。紙マニュアルの内容をWWWで提供するときなどに便利ですね。(株)メルコなどがこのようなサービスを始めています。

後者は始めからオンラインヘルプをPDFで作ってしまうという方法です。(Windows版とMacintosh版などの)クロスプラットフォームのソフトウェアのオンラインヘルプを最低コストで作ろうとするときに、威力を発揮します。
何と言ってもどちらかのプラットフォーム用の元文書を作ってPDF化してから、少し直してもう片方も作れてしまうというのは、メーカー側にとって大きな魅力です。他ならぬAcrobatがこの方式を採用しています(単に紙マニュアルのPDF化のような気もします)。

基本的な使いかたを理解したところで、マニュアルのPDF化による落とし穴についても考えてみましょう。

画面で見せる?プリントさせる?

マニュアルをPDF化するにあたって、どういうつもりでPDF化するのか充分に検討していないと、恥をかくことになります。
例えば、B5サイズの紙マニュアルを何も考えずにPDF化して、640×480ピクセル表示のディスプレイで読めるでしょうか? 読める訳ないですよね。
また、オンラインヘルプ用に、画面で見るときに最適なサイズでデザインしたPDF書類をプリントすると、紙がもったいなくてたまらないですよね(2面付けでプリントアウトすれば多少は改善されますが)。

つまり、以下のどちらを重視するのかを決定してから、作成にかかる必要があります。

どちらにしてもメーカー側にばかり都合の良い話になってしまいますね. . . 。
でも表現力という点で、PDFをオンラインヘルプに利用する価値は十分にありそうに思えます。WinHelpやAppleGuideよりも作成にかかる時間が圧倒的に短いこともメリットとしてあげられるでしょう(リンク/管理情報を一覧で見られないのがあとあと厳しいので、一概には言えないですかね)。

PDFでオンラインヘルプを作ったときに、どういうレイアウトが一番見やすいか、分かりやすいか、というのは今後の課題になってくると思います。

リソース不足にご用心

「よしっ!! WinHELPやAppleGuideでオンラインヘルプを作成するかわりにPDFを採用しよう」とお考えのあなた、メモリ容量は大丈夫ですか?。
仮想メモリが標準のWindowsならともかく、仮想メモリを嫌うユーザーが多いMacintoshの場合、ユーザーのメモリ環境に対する配慮が不可欠になります。というのは、本体のアプリケーションの他にAcrobat Readerを起動することになり、余計なメモリが必要になるからです。Windowは仮想メモリを標準採用しているからと言って安心してはいけません。処理の重いアプリケーションのオンラインヘルプでスワップが頻発するようでは、使い物にはなりません。
ましてや、出荷時の16MBの標準RAMで使っているユーザーのことを考えなくてはならないMacintoshの場合、オンラインマニュアルをPDF化するという、思い切った判断ができますか? 「このアプリケーションは32MB以上のRAMを搭載しているMacintoshでないと動きません」とか「このアプリケーションを起動するまえに仮想メモリをオンにしてください」とか書くのも厳しいですよね。

HTMLでマニュアルを提供するときも同じ問題が発生するので(最近はWebブラウザも結構重いんですよね)、これはPDFだけの問題ではない、と言えばそれまでなのですが。
実際にヘルプを見るユーザー環境への配慮を忘れてはいけません。

書類の保護を忘れずに

単純にマニュアルをPDFにして一安心というわけにはいきません。「PDFは見るだけなので、修正できない」という誤解があるようですが、そうではありません。
単にPDFにしただけの書類では、Acrobat Exchangeを使って後から変更を加えることができます。メーカーにとって不都合かつ理不尽な改悪を加えたPDF書類を流されてしまうと、企業イメージを損なう可能性があります。

このような事態に備えて、Acrobat ExchangeではPDF書類に対するセキュリティを設定できます。

セキュリティオプション

「画面で見る/プリントする以外の利用は認めない」という判断は正解です。かと言って、「提供したマニュアルに対して、ユーザーがカスタマイズする手段を残すためにロックはかけない」というのも立派な姿勢です。
この問題はメーカーの方針に全面的に依存しますので、とやかくは言いません。
当研究所としては、ある程度のロックは必要なのではないかと思いますが、プリントを禁止するのは論外だと考えています。

プリインストールはしたけれど

パソコンなどの場合、紙マニュアルを作成してからPDF化して、本体のハードディスクにプリインストールしてしまうという大技を使うことができます。特にノートパソコンなどは出先にマニュアルを持ち歩く必要がないので、これは便利このうえありません。
しかし、PDFマニュアルのプリインストールをするには、最初の紙マニュアルをかなりの完成度で仕上げる必要があります。というのも、プリインストールするデータはマスターCD-ROMに焼き付けられる訳ですが、マスターCD-ROMはそう簡単に変わらない(変えられない)からです。
お分かりになりましたか? つまり、マニュアルに誤記が発見された場合や、仕様が変更になった場合でも、プリインストールされているPDFマニュアルを変更することはできないのです(Webサイトから最新版をダウンロードしてもらうとか、最新版の収録されているCD-ROMをユーザーに配送するなどの対策が必要になります)。決定的な誤記の場合、サポートセンターにクレームの嵐が来ることが予想されます。

というわけでこの大技は、誤記を出さない自信のあるメーカー後からのサポートに自信のあるメーカー以外は使わないようおすすめします(笑)。

ここまでPDFをマニュアルとして使う場合に生じるであろう、いろいろな問題点について考えてみました。当研究所としては、省資源化の流れもあり、いろいろ問題はあるにしてもPDFの利用は活発になってくるのではないかと考えています。
今回考えたような問題をクリアして、よりユーザーフレンドリーなマニュアルを開発していきたいものです。

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