情報大工のひとりごと

情報デザイン業務の周辺で思ったこと、そして考えたこと

電子媒体移行本格化を目前に...な雑感

2015年1月16日(この記事のみ表示

大手ECサイトでスマートフォン利用者によるアクセス数がPCユーザーのそれを超えたという話もあり、スマートフォンすなわち常時接続・携帯可能なデバイスの普及や実利用状況が閾値を超えたと言い切って良い状況になってきました。そうするとそろそろ各種取扱情報の電子媒体・配信への本格的移行...という話があちこちから出てきそうですが、その前にこの領域について自分が現段階で漠然と考えていることを、何のまとまりもなく、だらだらと書き出しておこうと思います(笑)

  • 電子媒体・配信への移行の前提として、定額制での常時接続があります。取扱情報の閲覧のためだけの追加支出は認められない、つまりユーザーが通信費として支出している費用は固定ということです。ただ、最近の通信量制限(いわゆる7GB制限)などの流れを見ていると、この前提が揺らぐ可能性について注意を払う必要があります。電子媒体化した場合に活用するユーザー層と通信量制限を受けがちなユーザー層は重複することが想定されるため、今後の動向にも注意を払う必要があります。
  • Webサイトで公開する(Webコンテンツとして公開する)場合は、実際に利用する個々のユーザーにとって不要な類似情報のフィルタリングをなんとかしないと、取扱情報の電子媒体そのものに対する信頼が低下することが予想されます。バージョン違いや派生機種違いで同じような情報が検索結果として延々表示されて、「自分の環境に該当する情報はどれかいな」「製品型式の細かい枝番まで確認してないよ」と思った経験、ありませんか? 取扱情報入手までの動線設計が軽視される傾向がありますが、とんでもない話です
  • なんだかんだで電子媒体への移行は徐々に進むでしょうが、当面はパッケージ配信(デバイスに保存したものを閲覧)の方が、ユーザーにとって扱いやすいのではないかと考えます。その際は、発売後に追加されたトラブル対策情報やFAQなども閲覧できるように、デバイス側に保存したパッケージを更新できる仕組みを同時に用意しておきたいところです。
  • 対象情報の全体像の理解が不足しがちな、ユーザーに馴染みのない情報(例:新コンセプトの機能概要)を提供する場合は、情報を細かいトピックに分割せずに、ある程度の情報量をまとめて提示するようにしないと理解が困難になります(自分の経験を踏まえて)。一般的なスマートフォンの画面サイズでは、このような場面で可読性と一覧性を両立することが難しいため、タブレットくらいのサイズ(画素数と画面サイズ)が欲しいです。逆に言えば、物理的制限からスマートフォンに向いていない情報の種類もある、ということです。
  • 取扱情報の電子媒体化において、タスクごとのトピック完結/トピック分割ということはよく言われますし、基本的には賛成です(特に相互参照のループを防ぐためのトピック完結)。ただ表示できる情報量が制約される状況では、トピック分割による使い勝手の低下や、(分割された)情報相互の関連を把握しにくくなるという問題が発生しがちです。その意味でも、ある程度の情報量を破綻なく見せられるサイズは欲しいところです。
  • 電子媒体で取扱情報を展開するにあたってのネックの1つに画像の問題(スクリーンショットやラスタライズしたベクターイラストで詳細が潰れてしまう)がありましたが、Retinaディスプレイに代表される高精細表示デバイスと、複数解像度の画像を切り替えて表示する手法が普及することで、この点の問題は解消されつつあるように思えます。
  • 操作情報のUI化(埋め込み)により、操作を単純なステップバイステップで詳細解説する手法が占める範囲は、今後急激に低下することが予想されます。紙媒体でも(ようやく)重視されるようになってきたユーザーの利用状況の重視、目的や動機による誘引や動機付けの強化、といった面が電子媒体においても重視されるようになってきます。
  • 取扱情報のアクセシビリティ、問題として取り上げられることはあまり(めったに?)ありませんが、どうなんでしょうね。正直見当がつかない、というのが本音です。アリバイ的なアクセシビリティ実装で良ければなんとでもなるんでしょうけど、それで本当に実効性を担保できるのかについてはまったく確信が持てません。取扱情報自体がわかりやすさのために視覚情報との併用・統合を進めているという現状があるだけに、現状ではどうにも相性が悪いような気がしています。
  • ところで電子媒体導入当初に電子媒体のメリットとされてきた「情報と操作(機能)の連携」はどこに行ってしまったんでしょうね...。Webサービス系以外では、正直AppleGuide時代が絶頂期だった?という気もしないでもありませんががが。

ということで、本年もよろしくお願い申し上げます。

スマートフォン本格普及を前提とした取扱情報の電子配信のありかた、コンテンツの見せかたについて一緒に研究したい!という方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけ頂ければ幸いです。

Webコンテンツ作成支援、はじめます

2014年10月 3日(この記事のみ表示

業界を問わず、志を同じくする方々と議論などしていると必ず出るネタの1つに、「TCを主戦場とする人間がWebサイトの「コンテンツ」に進出するべき」という話があります。似たような話はここでも何度も出しているので、長年のお客様にはお馴染みの話でしょうか。

「わかりやすく正確に」「ユーザーの立場で」情報を処理することが第一とされるTCを専門領域とする人間からすると、現状のWebコンテンツには以下のような問題があるように思えます。

キャンペーンサイトや販促情報以外のコンテンツ品質
ライティングからコストを掛けているかどうか、またはいわゆる先方支給または既存リソース(マニュアルやカタログ、社内資料など)からの流用で済ませているかどうかが大きな理由なのでしょうが、後者の品質に問題を抱えていることが多いと感じています。ここで問題視しているのは流用すること自体ではなく、流用される情報の品質が低い、またはコンテンツの文脈にあっていないという点です。
なお、前者がユーザーにとって質の高いコンテンツになっているとは限らないことも大きな問題でしょう(後述)。
正確でわかりやすい情報開示による長期的信頼構築、という視点の欠落
事業者側の目的には合致しているのでしょうが、ユーザーの目的を満たすコンテンツとして成立しているのか?に疑問があるコンテンツが、相変わらず多いように思えます。例えば、コストを掛けて作成されたキャンペーンサイトや販促情報であっても、「事業者に不利な情報をごまかしがち」という文化は、紙媒体カタログの頃から変わっていないのではないでしょうか。
UXが一般用として認知される程度まで普及してきたものの、正確でわかりやすい情報が(長期的UXを成立させる土台となるべき)事業者とユーザーの信頼関係を担保するという観点が話題になることはほとんどありません。Webサイトというメディアはユーザー主導のプラットフォームであるという認識が一般化した現在になってもなお、です。
購入後/契約後のコミュニケーション設計がユーザーの利用状況を踏まえておらず、独善的
釣った魚には餌をやらない」と揶揄されるような情報提供スタンスは以前から変わっていないようです(この辺りの問題意識は、懐かしきWebSite Design Vol.8で書いた記事からほとんど変わっていません)。ここ数年では、さらに「一度毟った相手からは何度でも毟り取る」的な、事業者の本音があからさまなコミュニケーション(と称するもの)が増えてきていると感じます。
また、購入後/契約後のコミュニケーションを意識している場合でも、事業者の期待する行動を喚起することにばかり重点が置かれ、ユーザーが抱えている問題を解決する意識が低いようです。FAQやトラブルシューティングをはじめとした各種サポートコンテンツの品質もそうですし、サポートコンテンツへの動線設計自体も大きな問題として捉えるべきです。

で、この辺の問題をそろそろ何とかしたいのです。そして何とかできるのは、TC系の素養のある人間なればこそ、と思うのです。

なんとなく問題意識を持ってはいるものの「うまく問題点を言語化できない」「改善のための端緒としてどこから手を着ければよいのか悩んでいる」といった事業者さんやWeb屋さんがいらっしゃれば積極的に話を聞かせていただきたいですし、少しでも力になれるのであれば協働してお役に立ちたい。また、アプリの一般化に対して、ネットワーク上に展開する機能説明や操作説明、サポートコンテンツ(例:FAQやヘルプ)の整備が質的にも量的にも追いついていないのが実状と思われますが、この部分の悩みについても十分お役に立てるはずです。

ということで、決意表明とともに有限会社文書情報設計のサービスメニューに「Webコンテンツ作成支援」を追加いたしました。興味をお持ちになる方がいらっしゃいましたら、まずはお気軽にご連絡いただければ幸いです。「仕事としてはともかくとして、とりあえずこの辺の問題を肴に飲みたい」お誘いももちろん大歓迎です(笑)

残暑お見舞い申し上げます(2014)

2014年8月18日(この記事のみ表示

気が付いたら今年一度も更新していないじゃないですか! ということで、仕事が一段落したこともあり、最近考えていることをつらつらと書いてみます。

この数年「なんだかなあ...」と、いろいろと行き詰まりを感じることが正直なところ増えました。

  • 例えば「トリセツWeb化計画」とか、頭痛がします。とりあえずこの図だけは絶対に許せない、時系列で明示してる辺りが特に(笑)
    確かに電子化・ネットワーク化は利用者にとってメリットは大きいのですが、基本的に「ネット越しでも必要な情報を入手できればいいな(購入時の付属品をいちいち探すのが面倒くさい)」「製品購入前に操作情報を確認できればいいな(本当に自分のニーズに応えられるものなのか確認したい)」という目的に対するもので、探したい情報(や状況)が明確な状況が大部分を占めることになります。
    したがって、製品全体の概要(この部分はカタログやWebサイトの製品説明で展開可能)と詳細な操作指示情報(UIに透過可能な、単純な操作指示)の狭間、個々のユーザーが自分の目的にあわせて機能をどのように使いこなせばよいかという情報(ユーザーのQOLを上げるためのサポート情報)を受け持つ取扱説明書とは、目的も役割も異なります。この狭間をサポートするツールは、パッケージとして完結した状態で製品に付属していなければなりません。「電子版があれば良いのに」と「電子版があれば同梱冊子は要らない」は天と地ほど違うのです。
  • それよりも個別製品サポート情報へのアクセス改善とURLの永続性担保が先のような。
  • 『取説いらずの使いやすい製品』が日本で生まれにくい理由 」も別の意味で頭痛がします。
    取説いらずの使いやすい製品という発想自体が、取扱説明書の機能を狭く捉えすぎていると言わざるを得ません。「操作できる=使える=UX向上」ではないのであって、操作ができることに注目しすぎて、対象機能を使いこなすことによるユーザーのQOL増大(結果としての提供者側の利益拡大)という視点がごっそり欠落しているのが大きな問題です。
    これは設計職の方に良くある「UIの改善によりマニュアルは不要になる」という典型的な勘違いで、不要になるのは狭義の操作指示情報のみ(UI改善でどうにかなるのは狭義の「操作マニュアル」のみ)であって、機能概要などを説明することは困難なのです。対象機能の使いこなしには機能の理解が伴う必要があり、それはUI設計で必ずしも達成できるものではないのですが...。
  • 仕事の環境はいろいとと変わりつつも、TC領域を中心に20年超(!)仕事させて頂いているわけですが、「マニュアル」に対する周囲の理解がいつまで経っても向上していないと感じます。これは業界外だけでなく、業界内においても、です。業界内での問題意識や過去の取り組みの経緯(とその結果)が共有されていないため、いつまで経っても同じようなところをぐるぐる回っているようにしか見えません
    企業活動において外部専門家・専門技能を活用した品質向上活動がTC領域においてほとんど進まなかった(逆に「ソリューション」や「システム」による問題解決(いわゆる銀の弾丸願望)ばかりに注目が集まり、実直な品質改善が疎かにされた)こととあわせて、さすがにどうしたものかと言わざるを得ません。なんだかんだで開設以来18年を超えるこのWebサイトが、この閉塞した状況を変える一助として機能していない点については、力不足を恥じるのみなのですが...。

そんなこんなで、正直なところ様々な点で目算が誤っていた、というか楽観的に過ぎた(笑)と認めざるを得ない感じですね。さーて、これからどうしましょうか

まずは、お仕事絶賛大募集中です!大型小型、特定プロセスのスポット支援含め、ちょっとやらせてみようかな?という機会がありましたら、ぜひ声をお掛けください。制作案件だけでなく、既存の制作体制のままフォーマット改善(改善の前提となる現状品質評価)への外部支援や、まるでユーザーの方を向いていない商品/サービス説明が氾濫するWebコンテンツの改善など、ご協力できる・ご協力したい分野は無限にあるのです!(大事なことなので2度

ちなみに「パッケージとして完結している」のである限り、(電子媒体であってもパッケージとして頭から終わりまでリニアに読むこともできる)EPUBやPDF形式でもOKで、別に紙媒体に拘っているわけではないのです。「全部読んだけどどこにも書いていない!」などのように、ユーザーが全体を確認できないような形で提供されるのはNG、という判断です。まあそれでも電子媒体閲覧の一手間を掛けさせるのを何とかしないと、ですね。

大学におけるTC教育事例と課題

2013年9月18日(この記事のみ表示

テクニカルコミュニケーション領域の教育ネタは時々火が付いたりするものの、公開ドキュメントが少なく議論が拡がらないという問題を抱えています。そこで今回は、2010年のTCシンポジウムで発表した「大学におけるTC教育事例と課題 〜制作現場における教育の観点から〜」の発表論文を、研究発表として公開しました。

「うちのところはこうやってるよ!」「この部分について詳しく聞きたい!」「ああ、その辺どこも苦労してるよねー」などご意見ご感想などありましたら、お気軽にお寄せください!というか、こういう議論を公開の場でやっていきたいんですよ。そうしないと、いつまで経っても知見が共有されないでジリ貧になる一方ですがな。

夏バテから復帰中です...(祝:東京五輪2020招致成功)

2013年9月10日(この記事のみ表示

GW前後から抱えてきた大物案件が先月末でめでたく完了したこと、専修大学ネットワーク情報学部のマニュアルライティング講義も本年度分をめでたく完了したことで、少々脱力気味のこの頃です。厳しい暑さがようやく和らいできましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

  • マニュアルライティング講義の講義資料ですが、今年は大学内の講義支援システムで講義資料を公開することを優先したこともあって、サポートサイトがほとんど手つかず放置となっており、楽しみにされていた方には申し訳ございません。近いうちに講義資料公開しますね。カリキュラム構成の恩恵か今年は比較的少人数(68名登録)だったということもあり、学生が手を動かす機会を多めにしてみたのですが、期待通りの効果があった部分とそうでなかった部分もあり、何年やってもやはり講義設計は難しい...。
  • 今年から地方自治体の某委員会に公募委員として(一個人として)参加しているのですが、TC的というかHCD的というか、そういうアプローチが政策決定分野においても有効であることを強く感じています。まあ「強く感じる」と言うことは、現状ではその種のアプローチがあまり考慮されていない(利用者視点があまり考慮されず、システム/インフラ視点からのみの目的設定に陥りがち)という訳で、やはり政策決定に携わる人の発想の転換が求められるのかなあと。というよりも、教育を通じてプロセスや手法が社会に広く共有されるための一助を担わねば、と決意を新たにしています。
  • 「想定ユーザーとはそもそも何か?誰を意味するのか?」という、閲覧コンテクストを考える上ではずせない重要なポイント(マニュアル評価フレームワークでも明示)が、TC領域でもようやく拡がりつつあるようで嬉しいです(例:マニュアルディレクションあるある06:ターゲットユーザーふたたび)。一口に想定ユーザーと言っても、a.製品/サービス企画段階の想定ユーザー、b.実際に使用するユーザー、c.マニュアルを読むユーザー、のどれを指すのかで前提がまるで変わってきますからね。c.についても、閲覧時のコンテクストおよび閲覧対象情報という特定の状況においてユーザー像はまったく異なることにも注意が必要です。この部分については、早めに研究発表を更新したいと考えています。
  • TCシンポジウムはじめ協会の活動についてはいろいろ言いたいことがないわけではないのですが、当面放置かなあ的な感じです。周回遅れや重視すべきポイントのズレはいつまで経っても直らないし、近隣領域との交流も何だかなあ状態。そもそも(以下自主規制)
  • ようやく身軽になったこともあり、お仕事絶賛大募集中です!大型小型、特定プロセスのスポット支援含め、ちょっとやらせてみようかな?という機会がありましたら、ぜひ声をお掛けください。制作案件だけでなく、既存の制作体制のままフォーマット改善(改善の前提となる現状品質評価)への外部支援や、まるでユーザーの方を向いていない商品/サービス説明が氾濫するWebコンテンツの改善など、ご協力できる・ご協力したい分野は無限にあるのです!(有限会社文書情報設計のWebサイトは、リニューアルに向けて現在いろいろ修正中です)
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