電子メディアに適した表示フォントとは?

1999年2月15日

番外編ということで、ディスプレイ上で表示されるフォントそのものについて考えてみたいと思います。

フォントそのものの読みやすさをどう考えるか

最近オンラインヘルプに限らず、ディスプレイ上で文字を読む機会が増えてきました。Acrobat4.0では、日本語フォントについてもフォント埋め込みが実現しそうです。
そうすると、紙出力を念頭においてデザインしたフォントも、ディスプレイ上での表示品質が問われる時代になってくると思います。 しかし、現状の表示デバイス上で表示することを考えた場合、解像度不足もあって、やはり読みにくさは否めません。ディスプレイ上で読ませることを考えたレイアウトをしていないものが多いことも事実ですが、書体デザインの面からもこの問題を捉えることができるようにも思えます。

では、このディスプレイ上で文字が読みにくいという状況を、書体のデザインをされる方はどのように考えているのでしょうか? 第一線で活躍されているフォントデザイナーである佐藤 豊さんにメールでお話を伺う機会がありましたので、考える材料として取り上げてみたいと思います(実際にはインタビュー形式でお伺いしたわけではないので、要旨を押さえて編集してあります。なお、公開には許可を得ています)。

佐藤 豊さんにディスプレイ上のフォントについて伺いました

−現在の表示解像度では、アウトラインフォントをラスタライズし、アンチエイリアスをかけるという方法は、可読性に問題があると思います。表示用のビットマップフォントを別に用意すべきだと思いますが、いかがでしょう?

そうですね。やはり時間をかけてじっくり作られた、優れたビットマップフォントが最良だと思います。
確かにアンチエイリアスをかけてアウトラインフォントを表示すれば良いのでしょうが、解像度が現在の倍以上ないと「T-time」のように文字を拡大して表示するしかないように思えます。これでは文芸物には使えても、マニュアル文書では1画面での情報量がとても少なくなってしまいますね。

−アウトラインフォントならば、ゴシック系のフォントで12〜16ピクセル程度の大きさを維持する必要があると思いますが、いかがでしょう?

私は画面上では14ポイントのOsaka(Macintoshの標準フォント)で読み書きしています。液晶ディスプレイやマルチスキャンディスプレイを使っていると、12ポイントでは小さくて目に辛いですね。
PDFで見るのであれば、明朝体よりもゴシック体のほうが読みやすく感じます。 もちろん表示するフォントのデザインにもよりますし、私の好みの問題かもしれません。

−「ビットマップフォントの方が見やすいことは理解しているが、手間を考えるとペイしない」というジレンマについてはいかがでしょう?

プロ用の印刷用フォントはともかく、果たして画面表示用のフォントを買ってくれる人がいるか疑問です。目にも優しく本当に読みやすいものであるなら、買ってくれるユーザーもいるのかもしれませんが . . . 。
しかし、現状の環境ではOsaka以上のフォントを提供するのは、とても難しいのではないかと感じています。OsakaはOS標準フォントのため無料であるうえに、常に改良を続けています。
特定のアプリケーション上でしか使えないフォントというのも不便ですし、グレースケールフォントを使うにしても、OSと関係してくるので難しい面が多いと思います。

−やはり「デザインされたフォント」は従来の制作過程を踏襲し、基本フォントはOSメーカーの責任の元で視認性/可読性を追及する、ということに落ち着くのでしょうか?

本当に良い、画面表示用のフォントを作ってみたいですね。でも時間と費用、そしてOSとの連係が必要なところが問題です。そのため、現実的にはOSベンダーに期待するしかないのかもしれません . . . 。
チャレンジしがいのあるある仕事だと思うのですが。

−最後に、Microsoft社が提唱しているClearType技術についてはいかがでしょう?

現在の聞いた範囲では、ClearTypeはカラーモニタで白黒文字を表示するときに効果が出るのであって、カラー文字では色が干渉して問題があるように思えます。
しかし、これをOSレベルで採用することで、表示品質の向上が安価に実現できるのではないかという期待もあります。

どうもありがとうございました。

やはり現実のカベは厚い

やはり、気にいった高品質な文字をディスプレイで読めるようになるには、いろいろと問題が多いようです。
我々ユーザー側もOSベンダーに対して、画面上で文字を読むことに対する対策を取るよう、強く要求すべきなのでしょう。またそれだけでなく、高品質な画面表示用ビットマップフォントに対しては対価を払う必要があることを自覚し、必要であるならば出費もいとわない姿勢をフォントメーカーにアピールしていかなければならないのではないでしょうか。

解像度向上という側面では、ブラウン管という表示デバイスはほとんど限界にきているように思われます。ブラウン管以外の高解像度表示デバイスもいろいろと研究開発が進められているようですが、一般消費者が手に入れられるようになるためには、少なくともあと2〜3年はかかることは間違いないでしょう。
ClearTypeが実用化されたとしても、PCと家庭用テレビとの統合という流れを考えるならば、家庭用テレビにもデジタルインターフェースが装備されるようにならなければなりません。現実的には時間がかかることが予想されるため、解像度不足の問題にはこれからも付き合っていく必要があると思います。

それでは解像度が不足しているのにも関らず、画面上で文字を読む機会がどんどん増え続ける現状を、どう乗り切っていけばよいのでしょうか?
新しい表示テクノロジーの登場までの間をどうつないでいくのかは、今以上に深刻な問題になるのではないかと当研究所では危惧しております。メーカーにはClearTypeなどの表示テクノロジーの技術開発と並行して、画面上で読みやすいフォントとはどういうものか、といったフォントデザインの面からの研究も進めて欲しいものです。

いかがでしたか? 今回はたまたまフォントデザインをされているかたとメールをやり取りする機会があったので、それを編集して公開してみました。

画面上の可読性というと、どうしても表示テクノロジーの進化ですべてかたがつく、と思われているフシがあります。しかし、例えばMS Pゴシックを高解像度で表示して、それが読みやすいかどうかは疑問です。表示デバイス上で読むフォントが備えていなければならない条件といった、フォント自体の性質にも注意を払う必要があるのではないかと当研究所では考えています。

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