取説の作成現場をとりまく環境

1996年8月12日

取説の作成現場をとりまく環境、なんて恐ろしい言葉でしょう。今も昔も、環境としては、こんなところでしょうか。

厳しい現実

  • コスト削減
    まず、印刷がスミ(黒)1色になります。また、文字もイラストも小さくなります。なぜって、それは色数やページ数を減らせば部品単価が安くなるからです。
    そうそう、外部の専門家に外注していた取説の作成は、素人である企業内の余剰人員が担うことになります。設計者の文面そのままのような取説がついてきたときは、少し怪しいですね。
  • 人員削減
    取説の作成部署は、たいてい設計部門に従属しています。外注に仕事がでなくなった次は、内部の専門家がねらわれます。なんといっても間接部門員ですので、立場はとっても弱いのです。「君、営業をテコ入れしてくれないかね。」
    たいてい、余剰の設計者がそのまま取説を作成することになります。
  • 工数削減
    それでも心ある取説の専門家はめげません。こんな状況でも必死に良い取説を作ろうと、日夜努力を続けています。前のモデルの評判がいまいちであるならば、今度はよりわかりやすく、喜んで使ってもらえるように改善するために全力を尽くします。
    しかし、ここでとどめの「工数削減」。
    なにしろ、時間がとれないのです。コスト削減、人員削減の効果も相まって、「仕方がないから前のモデルを流用しよう」。
    新機能の分だけとって付けたような取説があったら、少し怪しいですね。皆様がお持ちの製品の取説に、お心当たりはありませんか?

意外と知られていない現実

あ、それからもう1つつけ加えることがありました。
皆様は「実際に製品を使いながら取説を書いているのに、どうしてあんなにわかりにくいんだろう」とお思いかもしれません。
とんでもない!!
β版テストを実施できるコンピューターソフトウェアの取説はともかく、家電製品の取説は設計仕様書を元に書き起こされているのです!!
実際問題として、このような状況では良い取扱説明書などできるはずがありません。

取説の作成現場はこんな状況です。
彼らの名誉のためにつけ加えておきますが、日本の取説は前よりずっとずっと進歩しています。しかし劣悪な環境で制作しているかぎり、改善の度合いもたかがしれています。
そこで皆様にお願いします。せっかく手に入れた製品に、ひどい取説がついてきたときは、「これでは使えない!」とか「本当に専門家が作っているのか?」とメーカーにアピールしてください。
きっと窮屈な思いをしている担当者には励みになることと思います。

今回は暗い話ばかりになってしまいましたが、皆様にもひどい取説の原因がどこにあるのか、何となくおわかりになってきたのではないかと思います。

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