使いやすさ向上のための取り組み(2)

1997年9月16日

前回に引き続いて「マニュアル担当者による使いやすさ向上のための取り組み」について考えます。今回はそのなかでも特に、マニュアル担当者として設計者にどうアピールするか、そしてアピールが受け入れられるための条件について考えてみたいと思います。

設計者にどうアピールするべきか

当然ですが、「この操作おかしいですよ」では受け入れられるわけがありません。具体的に、どこをどうおかしいかをアピールしなければなりません。
例えば、手順が錯綜していたり、操作に一貫性がなかったりすることを示すには、やはり制作中のマニュアルを示して説明するのが一番良いと思います。
設計者はたいてい頭だけでインターフェースや操作手順を考えているため、実際に錯綜した手順を見せられると、唖然としてしまいます。
素直な設計者なら、自分から手順を変える努力を始めてくれるでしょう。

ところが、素直ではない設計者の方が多いのが世の常でして(笑)。
こういう場合は、制作中のマニュアルだけではなく、「こうしたほうが良いのでは?」という代案の手順もあわせて示してみる、という手があります。この手は効果てきめんなのですが、重大な問題があります。
それは、インターフェース改良案作成に時間をとられて、マニュアル制作の時間がなくなってしまうということです。言葉は悪いのですが、人様の仕事に手を突っ込んでおいて、自分の仕事がおろそかになってしまっていては元も子もありません。
もっとあからさまにいえば、「実入りに直結しない仕事にそこまで力を入れなくても. . . 。インターフェース担当者を置かないメーカーが悪いんだから、わからないマニュアルが商品についても自業自得だよね」ということになってしまいますよね。

極論はともかくとして、どちらにせよ設計者にアピールするためには、自分の時間をとられる覚悟をしたうえで、積極的に「その製品のためを思えばこそ、改善するために最善の努力をしているのだ」ということをアピールすべきではないでしょうか。

設計者に信頼されるための条件

ここまで「どうアピールすべきか」について考えてきましたが、アピールが受け入れられるためには、設計者とマニュアル担当者に信頼関係があることという重要な条件があることを忘れてはいけません。

では、どうすれば設計者に信頼され、商品の使いやすさ改良に貢献できるるマニュアル担当者になれるでしょうか? いろいろな条件はあるかと思いますが、当研究所としては、次の3点が最重要だと思います。

  • マニュアル担当者としてプロフェッショナルであること: どんなにまともなことを提言しても、マニュアル担当者としての本来の仕事ができていないと、信頼してもらえません。これは当然ですね。「自分の面倒も見れないのに...」となるわけですから。
  • ユーザビリティ設計の専門的な知識を持っていること: 単なる感想に基づく意見ではなく、認知科学/人間工学の裏付けを持つ、一貫した意見を持っているマニュアル担当者はなかなか少ないです。
    この条件を満たすためには、日々の業務プラスアルファの研究が重要です。日々の忙しさにかまけている場合ではありません。
  • 商品を良くしたいという熱意があること: 設計者にとって一番重要なのは、実はこのことかもしれません。「一緒に商品を良くしていきましょう」とか「一緒に頑張りましょう」という一体感が好きな設計者は、やはり多いようです。

これらの条件を兼ね備えるのは、かなり至難のワザと言えます。
どう考えても最初からここまでは無理だと思うので、日々の業務を通じて、少しずつ設計者との信頼関係や、専門分野の知識を培っていきたいものです。

ところでマニュアル担当者の仕事とは?

ここまで読んできて「そもそもこういう話ってマニュアル担当者の仕事じゃないじゃん」と思われたかたもいらっしゃったかもしれません。
しかし、当研究所はマニュアル担当者とはお客様(ユーザー)に商品の取り扱い情報をどう提供すべきかを総合的にデザインするプロフェッショナルであるべきと考えるのです。

商品の取り扱い情報とは、マニュアルだけとは限りません。取り扱い情報とは、カタログ情報、商品自体が持つ(アフォードする)情報、サポート情報など、いろいろな形態でこの世の中に存在しています。
マニュアル担当者は日々の業務を通じて、好むと好まざるとにかかわらず、取り扱い情報提供のプロであらねばならぬよう仕向けられています。せっかく身に付いたワザなのだから、ユーザーに還元すべきではないでしょうか? (結果としていつも迷惑ばかりかけていることですし)というのが当研究所の主張ですが、いかがでしょうか。

それに(こういうことを書くと気を悪くされる方もいるかもしれませんが)もうマニュアル担当者がただのマニュアル担当者にとどまって満足している時代ではないと思うのです。
商品の情報はどんどん商品自体、紙以外の媒体に吸収されていきます。こういう状況でユーザーのために情報の一番有効な提供方法を考えることこそ、ユーザーに歓迎されるマニュアル担当者の姿でしょう。
また、これくらいのことができないようでは、マニュアル担当者としてこれからの時代には生き残っていくことはできないでしょう。「生き延びる」という視点からだけ見ても、旧態依然とした考え方から訣別すべきときではないかと考えます。

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