省資源とマニュアル

1998年1月 3日

今回のテーマは「省資源とマニュアル」です。昨年の京都会議で(また)急に盛り上がった省資源熱(旧:省エネブーム)ですが、一時のブームで終わらせてしまってよいものではありません。

現状のマニュアルが莫大な紙資源を消費している以上、省資源の問題は人ごとではありません。マニュアルを提供する側として、省資源に貢献するにはどういう方法があるか、考えてみましょう。

使用する紙を環境に優しくする

まず必要なのは、マニュアルに使用する紙を、省資源を意識した材質に変更することです。つなり、再生紙を使うということですね。
最近では、再生紙を使用することはもはや常識となっています。マニュアルどころか名刺にさえも、「再生紙を使用しています」というような記載が多く見られるようになってきました。
そうはいっても、再生紙にもいろいろあります。
100%古紙をリサイクル利用しているものから、ちょっとだけ古紙を利用しているものまで、いろいろです。古紙含有率にも注目しなければなりませんね。

ところで、古紙含有率が高ければ環境負荷が小さい、といちがいに言えないのが怖いところです。
再生紙を使用しているはずなのに、妙にきれいな紙だな...と思ったことはありませんか? その紙はきっと塩素漂白をかなりかけているに違いありません。
この塩素漂白は結構問題児のようで、ヨーロッパでは「塩素漂白してません」記載もはやっているとかいないとか。つまり使用した塩素を廃棄する段階で、環境に負荷をかけるということが問題のようです。
できれば塩素漂白をしていない紙を使うべきなのでしょうが、マニュアルに対しても過剰な品質感を求める日本のユーザーに理解してもらえるかどうか、疑問ですね。

省資源を考慮することと同時に、環境負荷をいかに減らすかも同時に考えていかなければなりません。メーカーの取り組みを批判するだけでなく、われわれユーザー側の意識改革も同様に必要とされているのです。

無駄な紙マニュアルを減らす

使用する紙を何とかする以外にも、マニュアル側で省資源に協力できる手段はまだあります。
その一つは、無駄な紙マニュアルを減らすことです。
同一製品を複数購入したときに、マニュアルは1つあれば充分なのに...と思うことはありませんか? ライセンスパックが用意されていないソフトウェアを複数購入したときなど、マニュアルの山を見てため息をついたことがありませんか? 
企業でまとめて購入したパソコンなど、備品類の大量のマニュアルはどうでしょう。まさか配付された全員が、マニュアルを必要とするわけではないですよね? 
おまけに量が多いと保管場所にも四苦八苦です。結局廃棄ということになるマニュアルが何と多いことか。これを無駄と言わずに何と言いましょう。
やはり、不要なマニュアルを発生させないようにするために、販売方法を検討する必要があるように思えます。

そうはいってもマニュアルの有無が混在すると、生産効率的には問題が出てくることが予想されます。しかし、マニュアルを投入しないで済むならば、それなりのコストメリットも出てくるのではないでしょうか。
BTO(Build To Order )が盛んになってきている今だからこそ、マニュアルレスにも対応できるようにして欲しいと思います。特に企業向けなど、大量販売ルートを持っているメーカーに要望したいところです。

ソフトウェアに関しては、10ユーザーからと言わず、追加購入するユーザーに対してはライセンスパック販売扱いとして、シリアル番号の配付だけにするという手段も有効なのではないかと思います。
この手段を用いれば、マニュアルだけでなく、箱や梱包物に使用する紙まで節約できます。箱や梱包物も使用しないということは、流通コストも節約できるということです。
流通コストが下がるのであれば、商品の値段も下げられます。うまくすれば正規購入ユーザーが増加して、不法コピーが減少するという効果も期待できそうに思えるのですが、いかがでしょうか。

紙マニュアル自体を減らす

最後に「商品に付属する紙マニュアルの比重を下げる」という手段があります。紙マニュアルにすべてを任せるというのではなく、電子マニュアルを併用していくということです。これからの時代は、この方法が本流になるでしょう。

現状の電子マニュアルとしてはパソコンのソフトウェアに注目が集まっていますが、テレビや電子レンジに至るまで、機器の表示デバイスを活用する流れが強まっています。
つまり、機器の表示デバイスに操作方法の説明などを表示させることで、紙マニュアルに頼らなくても、操作情報をユーザーに提供できるようにしています。
環境負荷を軽減するためというよりも、実際には紙マニュアル削減によるコストダウンと、マニュアルも読まずに文句を言ってくるクレーム対策が主目的と思われますが、結果的に正しい流れに乗っているのがすごいところです。

インストラクション・デザインの観点からすれば、操作情報の埋め込みは、ハードウェア/ソフトウェアを問わず、今後の主流となるでしょう。
紙マニュアルで提供すべき情報と埋め込まれた操作情報を、どうコーディネートして、わかりやすく提供していくかにマニュアルを提供する側の力量が反映される時代になりそうですね。

結果として紙マニュアルは、PL法情報など必須とされる一部の情報を残し、なくなっていくのではないかと思います(ビューワーを必要としない紙マニュアルが、この世から完全に消え去ることはありえないと思います)。
マニュアルが紙資源を無駄に使用しているという批判を聞くのも、あとすこしとなりそうです。

ところで前からの疑問なのですが、操作情報が電子マニュアル化された場合、電力消費の増大という形で環境負荷を増大させることにはならないのでしょうか? 当研究所の守備範囲を超えてしまいますので何とも言えないのですが、電力供給の問題は、原発というナーバスな問題に直結しますので、ちょっと不安です。
パソコンの電子マニュアルに関していえば、CRTから液晶ディスプレイなどの省電力デバイスへの変更が進めば全体的な電力消費は低減すると思われますが、どうなりますか。
全体的な台数が増加するので、相殺されてしまう程度なのかもしれませんね。
MPU単体で43W!(300MHzリリース時)も電力を喰うといわれる、Pentium IIを使用したパソコンは使用しない、といったユーザー側の努力も必要かもしれません(笑)。

いかがでしたか? 一度予告しながら流れてしまったこのテーマでしたが、やはり難しいテーマでした。

いずれにせよ、われわれユーザーの意識改革と密接に結びついていることだけは確かです。無責任な要求を出して、結果としてメーカーに「環境負荷の大きい選択」をさせないようにしなければなりません。

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