マニュアルのコストダウンを考える

1997年1月15日

以前のバージョンではいろいろなコスト絡みの話が混ざってしまっていたので、メーカー側(発注者側)から見たマニュアルのコストダウンについて検討したいと思います。[2000.4.24改訂](以前のバージョンをご覧になりたい方は、こちらです)

コストダウンは必要不可欠

今さら言うまでもありませんが、メーカー/ユーザー双方の利益のためにも商品を構成する部品のコストダウンは常に必要です。もっとも、それはあくまでコストダウンが適正な範囲に収まるという条件付きであることは言うまでもなく、コストダウンそれ自体が自己目的化してしまうとろくなことがありません。「コスト削減で値段は下がったけれども、安かろう悪かろうではね」ということになってしまうと、ユーザーの足も遠のいてしまいます。

では、マニュアルのコストを削減するには、どのような方法があるのでしょうか? おそらく、次の2通りの方法を併用することになるのでしょう。

  • 部品代を圧縮する
  • 制作費を圧縮する

それぞれの方法を採用するときに、具体的にどうコストを減らしていくのかを見てみましょう。

部品代を圧縮する

部品代を下げるためには、主にマニュアルの印刷にかかる費用を削り込むことになります。印刷工程は製品の製造ラインと同様に設備集約型の工程ですので、コストダウンのために用いられる手法は、物理的な方策を中心としたシンプルな物になります。

  • 刷色を減らす:
    例えば、今まで2色のカラー印刷だったものを1色にしてしまう。制作費用の圧縮の口実としても機能します。
  • 安い紙を使う:
    安価な紙を使用することで、コストダウンが期待できます。ただし、紙の選定はマニュアル自体の質感にも大きな影響を与えますし、いくら安い紙だからといっても、裏面が透けて見えてしまうようでは困ります。
  • 一度にたくさん刷る:
    まとめ刷りによってコストダウンを図る方法です。資材(発注)担当者の腕の見せ所といえばそうなのですが、SCMにも見られるように、最近は今まで以上に「在庫」については敏感になっているので、こうした手法はもはや時代遅れの感も否めません。細かなバージョンアップを繰り返しているような商品では、生産ロット管理の面でも困難が伴います。
    そもそもメーカー側の戦略自体が、BTOに見られるように多品種少量生産に移ってきているのが現実でしょうから、この手法は厳しいものがあるのかもしれません。
  • 操作情報の電子化を図る(ページ数を減らす)
    これまで紙マニュアルで提供してきた情報をヘルプやCD-ROM、Webサイトで提供することで物理的なページ数を圧縮し、印刷費用を削減するという方法です。何でも安易に電子化するのは論外ですが、適切な方法を用いることでメーカー/ユーザー双方に利益がもたらされる場合があります。この辺の話題について詳しくは、「役割の変わる紙マニュアル」をご覧ください。
  • 印刷単価を引き下げる
    まあ要するに、印刷会社いじめですね。設備集約的な産業ですので、どうやっても限界が出てきます。無茶な要求も程々にしてくださいませ(苦笑)。

制作費を圧縮する

マニュアルの制作費を切りつめることで、製品開発費用を下げるというのも効果的なコストダウン手法です。制作工程は人材集約型の工程のため、単純な自動化や量産メリットによるコストダウンが効きにくいことに注意が必要です。

  • ひな形をしっかり作って、徹底的に流用する:
    基本となるモデルのマニュアルを制作するときに、あらかじめ今後の派生モデルも念頭に置いた作り込みを行うことで、派生モデルの展開時に制作費を軽減できます。ご注意やPL法関連文などの共通部分に関しては、別カテゴリーのモデルにも流用できるようにあらかじめ入念につくり込んでおくと良いでしょう。
  • ページ数を圧縮する:
    ページ単価制のコスト体系を採用している場合には、ページ数を削減することで全体のコストを削減できます。ただし、必要な情報自体の絞り込みを行わずにページ数を削減するということは即ち、ページ単位あたりの情報量が増大することを意味します。
    ユーザーを無視して、見やすさ/読みやすさよりもページ削減に主眼を置くことのないようにしたいものです。
  • 制作手法を制作会社にまかせる:
    最終的な納品形態だけを指定して他の部分は制作会社にまかせることで、スクリプトによる初回雛形制作の自動化などというように、各制作会社が持つ省力化のための独自ノウハウを発揮できる場合があります。
    制作現場の実態を知らないメーカー側の担当者が、まったく意味のないデータ仕様を強要することがありますが、無駄な工数を増やすだけです。
  • 制作中の変更は極力少なくする:
    実際問題として制作会社側が一番嫌うのが、担当者をその案件に張り付けておかなければならない状態で制作がずるずる長期化する(他の案件を担当できない)という事態です。
    仕様の数値変更など、オペレーターなど第三者に任せられる単純な修正ならばともかく、操作仕様が頻繁に変わるようなものは第三者に任すことができなくなるため、いろいろと問題が生じます。
  • 制作単価を引き下げる
    まあ要するに、制作会社いじめですね。これまでも何回か取り上げていますが、現在の複雑な製品のマニュアルを良く理解して制作できるような人材は、業界全体でもそれほど多くないのが現実です。あまりに理不尽な要求をすると人材流出によって自社マニュアルの品質が下がる原因となりますので、その辺の覚悟を十分にした上で決断されることをお勧めします。

受注側も納得できるコストダウンとは

ここまで見てきたように、マニュアルのコストダウンを図るにはいろいろな手法があります。ただし「メーカーのコストダウン=制作会社/印刷会社の売り上げ減」ということを忘れて闇雲に自社本位のコストダウンを図ると、誰にも相手にされなくなってしまうことは言うまでもありませんし、制作会社/印刷会社の従業員もメーカーのお客様であることを忘れてはなりません。

しかし、お互いに甘えのある関係では効果的なコストダウンなど期待できないこともまた事実です。それでは、受注する制作会社/印刷会社側が許容できるコストダウンとは、一体どのようなものなのでしょうか?

ありきたりではありますが、やはり「コストや負荷を受注側で削減できる余地を残した上で、メーカー側がコストダウンを要求する」ということに尽きるのではないかと思います。

受注側が工夫することで吸収できるような要求であれば、メーカー側はどんどん要求しても良いでしょうし、受注側もそれに応えるべきでしょう。単価を切り下げられたとしても、その分工夫して仕事の負荷を軽くできるのであれば、極端な問題は生じないということです。まあこうした適切な要求を出すためにはメーカー側も勉強が必要ですし、制作会社/印刷会社の正当な要求は聞き入れる度量が必要になりますが(苦笑)。

しかし反対に、メーカー側で詳細な決めごとを強要して工夫の余地を奪ったりしているような場合や、有能な人材を長期にわたって一つの案件に縛り付けることを強いているような場合には、コストダウンを要求するまえに発注者であるメーカー側の意識改善、工程管理改善がまず必要になります。受注側で工夫の余地がなく負荷の削減ができない状態で、単価だけを下げられてはたまったものではありません(改めてメーカー側に警告しておきますが、マニュアル業界は労働力の流動性が元々高いこともあり、有能な人材は簡単に逃げてしまいます。制作会社/印刷会社を変えても長くは続きませんので、よく考えることです)。

印刷会社のマスプロダクション工程を別にすると、結局のところマニュアルのコストダウンのポイントは、作業工数をいかに削減するかに尽きるのです。「どうやれば自分だけでなく相手も楽ができるのか?」を考えるようにすれば、おのずと答えが見えてくるのではないでしょうか。

いかがでしたか?

コストの話は発注側と受注側を分けて考えないと、「適切なコストは必要」という単なる精神論になってしまうので、発注するメーカー側の観点を中心にして、内容をまとめ直してみました。

制作会社の立場から見ると、近年の複雑な製品のマニュアルを制作するためには、コストがかさんでも有能な人材を確保する必要があります。しかしその一方でメーカーからはコストダウンの要求が来るわけで、板挟みの状態が続くわけです。もちろんメーカーが制作会社の言い分をすべて聞く必要はないのですが、最終的にユーザーに安くて良い製品を提供するためにも、メーカー側がマニュアルにかかるコストの構造をもっと理解する必要があるのではないかと考えています。

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