2009衆院選の論点(2/3)

2009年8月21日

前回に引き続き、8/30に迫った衆院選の論点です。不在者投票をお考えの方もいることを思い出したので、「民主党を支持すべきでない理由」を先にやりますか...。

ネットの世界でしばしば指摘されることですが、民主党支持者に「民主党の良い点を『自民党』という言葉を使わずに説明してください」と質問しても、まともな回答が帰ってこないというのは興味深い事象ですね。結局のところ現状の不安・不満を「自民党にお灸を据える」形で発散しているに過ぎません。例えば、以下のようなパターンでしょうか。

  • 「チェンジ(笑)を求める!」
    変化が望ましい方向にのみ起こるものであれば良いのですが。それに世界各国と比較して日本がそれほど駄目な国だとは思えませんが...。
  • 「一度やらせてみて、ダメなら変えればいい!」
    選挙互助会の異名を持つ政党が内部分裂して、内閣不信任案が可決される事態を望むのも都合が良すぎると思います(案の定、民主党の岡田幹事長は「4年間解散しない」と発言)。
  • 「とにかく今のままではジリ貧だ!」
    60数年前にも同じような発想で大火傷をしたことがありました。
  • 「誰がやっても同じだ!」
    現在の官僚機構への信頼が厚いのですね。民主党に任せる理由が(略)

「自民党にお灸を据える」というのは一昨年の参院選と同じような行動原理だと思いますが、その結果何が起こったのか、躍進した民主党が何をしたのかを、投票前に整理しておく必要があるのではないでしょうか。

  • 年金問題を争点にして勝利した民主党ですが、年金問題を解決するために何をしたでしょうか。何もしていません。定期的に「新たな年金問題が発覚!」と報道されますが、問題を起こしていた社会保険庁職員が自ら明らかにする事例ばかりです。どうして与党の調査には明らかにせずに、野党にばかり協力するのでしょうか?そういえば問題を起こしていた当人達が所属する労働組合(自治労)は民主党の支持組織でしたね。そもそも「実はこんな悪いことをしていました、こんなこともしていました」と当人が明らかにしているのに、叩かれるのは政府ばかりというのは、かなり歪んた事態ではないでしょうか。
  • そういえば政治とカネも争点になっていましたね。民主党の前代表と現代表が問われている、迂回献金問題と故人献金問題はどうしましょうか。迂回献金問題はグレーな余地がまだあるのでセーフかもしれませんが、故人献金は政治資金規正法違反ですから「国策捜査だ!」どころではなく、いつ逮捕されても不思議ではありません。マルチ業界との癒着も疑われている議員も存在するようですが、「政治とカネの問題はもう解決した」として争点にはしないのですか?
  • 衆議院における2/3再議決を「強行採決だ!」「数の横暴だ!」とよく批判しましたが、昨年末の所謂「緊急雇用対策関連4法案」は野党が多数を占める参議院において、審議時間2.5時間で可決しましたね(法案内容について馳議員の日記)。参院議長は「迅速採決とは言えるかもしれないが、強行採決とかいう話じゃない」とコメントしたそうですが。(多数派による濫用を防ぐため)証人喚問の実施にあたっては全会一致の原則という慣例があったにも関わらず、これも無視して証人喚問を議決したこともありましたね。民主主義を守るための手順を軽視する参議院の惨状を見るにつけ、「強行採決を濫用してやりたい放題の議会運営をしてきた」と思われがちな自民党が、少数政党の発言権や議会運営のルールをどれだけ大切にしていたか、良くわかります
  • この2年で参院民主党が一番精力的だったのは、国益と国民生活をまるで考慮しない、審議拒否と採決拒否でした。テロ対策特措法は審議拒否によって一時失効して、活動が高く評価されていた海上自衛隊は一度引き上げざるを得なくなりました。昨年春の租税特措法を巡る混乱(所謂ガソリン税を巡る混乱)では、衆参両院議長の調停を反故にするという暴挙にまで出ました。おかげでガソリン販売に関わる多くの会社・個人を混乱に陥れただけでなく、地方自治体の予算執行凍結の影響で(資金繰りに苦労している)地方の建設業者に大きなダメージを与えました。補正予算を巡る妨害も、記憶に新しいですよね。
  • 「政策より政局、解散、政権交代!」ということで、まともな対案が発表されることはありませんでした。後期高齢者医療制度についても廃止を主張するばかりで、当該制度が導入されるに至った背景や問題点を解決する方策が提案されることはありませんでした。製造業派遣禁止によって発生するであろう、国外への工場・雇用流出への対応も真剣に検討された形跡はありません。予算案などにおいても、自党案丸呑み以外は決して認めないという態度に終始し、「議論や協議によって自党の政策を反映し、票を投じた有権者の期待に応える」という姿勢を見せることはありませんでした

民主党を支持する方にとっては厳しいと感じられる採点だったかもしれませんが、実情はこんなところでしたよ。そのような政党に政権を委ねて、現状抱えている問題がどのように解決されるのか、じっくりと説明していただきたいものです。「自民党」という言葉を使わずに、ですが(笑)

なお、衆院選のマニフェストについての議論はあちこちでなされているので、ここでは触れません。あまり取り上げられない観点のうち、何点か気になる点をあげておきます。

  • 先に挙げた問題点とも関連しますが、民主党のアイディアは既存の法体系やルールとの整合性、現状からの移行計画という面で粗があることが多すぎます(現状の理由をしっかり分析できていないことが原因)。社会人としてある程度の経験を積んだ人であれば誰しも理解していることだと思いますが、新しいアイディアを提出することよりも、それを実行できるような計画に落とし込むことの方が難しいのです(そして実行することは遙かに難しい)。官僚を頼らないと宣言しているのであれば尚更、現在の野党という立場であっても整合性があり、蓋然性が高い方策を提案できなければなりません。
  • 脱官僚を好意的に受け止める方も多いようですが、現状の不満を官僚にぶつけているだけではありませんか?それに皆さんが経験上不満を持たれている官僚(公務員)は国家公務員ではなく、地方公務員ではありませんか?地方公務員を減らす権限を持っているのは自治体の首長と議会であり、国政選挙の場でそれを期待するのは少々筋違いです。ちなみに公務員組合を支持組織に持つ民主党が、本当に公務員を減らせると考えるのは楽観的に過ぎます。民主党は「(杜撰な年金記録管理をしていた)社会保険庁の職員を(よりによって)国税庁に移管して歳入庁に再編する」とまで主張しているのですよ。

自民党(というよりも麻生政権)を信頼できる理由については、来週にでも。この週末に時間がある方は、ぜひノーカットの党首討論をご覧ください。普段はマスコミの切り貼り編集で覆い隠されていますが、ノーカット版をご覧になれば両党の党首の力の差は歴然ですよ。

最後に民主党的な議論の仕方について、興味深い分析がありましたので引用しておきます。この論法を頭に入れて、騙されないようにしてくださいね。

鳩山代表に限らず、これは民主党のほとんど全ての議員(新人、中堅から執行部の幹部議員に至るまで全て)が、実は同じ論建てをしている。 国会中継をつらつら見ていて、毎回いつもなんというかムカツクwしゃべり方をするなあ、と気になっていたのだが、民主党論法は概ねこんな感じ。

まず、相手に「俺が考えたおまえのダメなところ」という表現をして、相手の主張を換骨奪胎したものを先に脳内補完して説明してしまう。 そうすると、相手は「いやいや、それは誤解で俺が言いたいのはこういうことで」ということを説明する(受け)ことになる。そもそも、主張が間違って伝わっているのだから、その「間違った解釈」に乗ってしまっては話にならないからだ。

相手が「それは誤解」という説明をしたところで攻守交代すると、民主党はまず冒頭で必ず「よくわからない」「全くダメ」「話にならない」という感じで、具体論ではなくて印象論で相手の答弁・返答を全否定する。 この部分はテレビ番組のダイジェストなどでも引用しやすい。返答は具体性を突き詰めれば微に入り細に入りになるし、そうした長文引用などしていられないから、それを民主党側が「脳内総括」して印象付けした否定的な結論を、反論の冒頭で必ずくっつけるわけだ。 そうすると、途中を端折ってオチの部分だけを記憶しているオーディエンスは、具体的=長い説明が、その冒頭の総括で断定されたような気分になってしまうので(ダイジェストを作るときに)、そこを抽出してダイジェストを作ると、自然と「民主党が圧勝」のように見えてしまう

つまりこれは、「具体的な説明」をさせるように見せかけて、その労力を全て「予め用意しておいた印象・断定総括」で吹っ飛ばしてしまう、というやり方なわけだ。 もちろん、相手の主張についても予め脳内で「誤変換」しておいたものを前提にし、それに基づいた「自分の正しい結論」に誘導し、相手の主張に対しては決して理解したり、同意したりはしない。相手に一部でも同意したら、自分の理解に基づく自分の正論が崩壊してしまうためだ。

こうした「相手の主張を自分に都合良く誤変換し、それに基づいて結論を決めつけて、相手を自分の結論から排除してしまう」という論述方法は、ストローマンとか藁人形論法とか言うらしい。

党首答弁討論 - さぼり記

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