世の中は論理思考ブームのようで、MECE(mutually exclusive, collectively exhaustive)つまり「互いに重ならず、すべてを網羅する」というキーワードを聞く機会が増えました。

そもそも論理思考がブームで良いのか?という話は置いておくとして、実はこれまでの紙媒体のマニュアル制作の基本精神とは、まさにこのMECEだったんですよね。つまりページ増を防ぐために情報は重複させずに、すべての機能説明や注意を網羅しなければならない、という訳です。経験を積んだマニュアル制作者が論理思考や情報の構造化に強いと言われる所以は、ここにあったのです(最近はこの能力の低下が目立ってきているようですが)。

なんですが、メーカーなどの情報の提供側からするとMECEで良くても、ユーザー側にはとんでもない話となります。これは当たり前の話で、情報が他の見出しと重複しているかどうかなんてユーザには関係ない訳で、とにかく直接必要な場所を見るだけですべて完結していて欲しいというのは当然の欲求ですよね。マニュアルではなく攻略本が評価されるのは、このような側面もあります。ここまではMECE的マニュアルのME部分の問題と言えるでしょう。

また、マニュアルが些末な情報まですべてカバーすることで、情報の伝達効率が低下するという問題もあります。以前取り上げたこともありましたが、操作の柔軟性という名目で複数の操作方法を提供しているような機器の場合、すべての場面ですべての方法を説明させようとするメーカーのなんと多いことか。結果として重要な情報が埋もれてしまうだけでなく、ユーザーの読む気を損なったり、さらには情報量増によるコスト増につながったりとロクなことがありません。これがMECE的マニュアルのCE部分の問題です。

さすがにこの辺の問題にはマニュアル制作者も気付き始めていますので、情報量の制約が少ない電子マニュアルでは、MEなんか無視してトピック内で情報完結するのが基本となっています(重複を避けてリンク参照なんて、誤操作を招くので愚の骨頂です)。紙マニュアルでも、導入編などの最優先で伝達効率が要求される領域に関しては、重複を厭わずに情報完結を狙うことが増えています(当研究所もこの方法で構成を組んだことがありますが、好評でした)。

しかし、CEの壁はまだまだ厚いのが現実です。追加した機能はすべて説明を入れたがる表面的なスペック重視も相変わらずですし、些末なユーザークレーム回避のための逃げ道という発想もなかなか減りません。最終的なユーザーの利益と伝達効率を考慮した上で、メーカーがユーザーに提供しなければならない「すべての機能の情報」とは一体なんだろう?ということをゼロベースで検討することなしに、この問題はおそらく解決しないでしょう。

論理思考の考えかたとしてのMECEはともかくとして、マニュアル制作の考えかたとしてはMECEはもう限界!というお話でした。

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