目に見えない価値が評価される前提とは

2001年10月22日

当研究所が力を入れているのは、わかりやすさや使いやすさといった価値なのですが、皆様もご存じのように、これらの価値は直接目に見えるものではありません。EC系のWebサイトであれば、ユーザビリティ設計がそのまま購買実績に直結することも多いでしょうから、売り上げという目に見える価値として機能しているといえます。ですが、他の分野ではなかなかそうは行かないというのが実情でしょう。ユーザビリティ設計が劣悪なWebサイトであっても、扱っている商材の商品力でカバーしてしまうような力技が通用してしまう面もあるので、難しいところです。

そうすると、目に見えない価値をお客さまにどう理解していただくのかが大変になります。この場合のお客様は最終的なエンドユーザーではなく、マニュアルやWebサイトの制作を依頼してくるお客様ですね(最終的にはエンドユーザーにもその価値を訴求する訳ですから、結果的には同じことなのですが)。ありがちな路線として、サポートコストの低減やユーザー体験の品質強化によるリピート率の向上ブランドロイヤリティへの寄与ということを中心に訴求することになるのですが、問い合わせ数の減少によるサポートコストの低減はともかく、後者のような目的は数値目標的に測定すること自体が困難であったり、実際の数値において変数としてどれだけ寄与しているのかを独立して取り出すことが困難であったり、なかなか難しいところがあります。お客様としても、感覚的に理解できても、上層部から承認を得るためには数値目標的に達成基準が客観的に測定できる必要があるため、定性的な訴求だけではなかなか認められることはありません。

本来、デザインや機能といった目に見える部分の商品力にそれほど差がないのであれば、目に見えない部分の価値が商品力として重要な価値を持ち得るはずです。そういう意味で、同じ商品を扱うことが多いEC系のWebサイトで、ユーザビリティ設計やユーザー体験の強化に力が入れられていることは当然といえます。問題は、目に見える部分の商品力が多少劣っても、目に見えない部分の商品力が他を圧倒している場合です。こうした場合でも、たいていは目に見える価値の方が優先されてしまうことが多いのです。これではいつまで経っても、目に見えない価値は商品力に寄与しないことになってしまいます。

目に見えない価値を理解してもらうには、目に見えない価値を目に見えるような形で訴求するしかありません。それはわかってはいるのですが、どうやって目に見えない価値を目に見えるように実装していくのか、そして目に見えない価値を定量的に評価するスキームを作り上げるのか、なかなか難しいところです。ですが、ここを乗り越えないと、マニュアル制作やユーザビリティコンサルといった業界が「おたくの○○○はデキが悪い。デキを良くしないと祟りが〜」というような恐喝産業(苦笑)として認定されてしまうことでしょう。最近ユーザビリティ関連で派手な動きも散見されますが、目に見えない重要な価値を、それなりの対価が必要とされるものと理解してもらえるようになるためには、まだまだ地道な取り組みが必要とされているのではないでしょうか。

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