情報発信者の保護と、公開された情報の保護

2004年2月 9日

ネットワーク上の情報に対するクレーム問題は以前からあったとは思うんですが、昨年末あたりから一部で立て続けに騒ぎになったので少しメモを(あえてどの問題かは触れずに、一般論として)。

ネットワーク上に有用な情報をより多く流通させるためには、立場的に弱い発信者をどう保護するのかが重要な課題です。その意味で、発信者のリスクとして一番大きいのは、とにかく相手のリソースを奪うことが目的の訴訟ではないかと考えていました(過去記事)。しかしプロバイダや検索エンジンにクレームをつけて、ネットワーク上から都合の悪い情報の抹殺を図るという最近動きを見ると、発信者の保護もさることながら、公開された情報それ自体の保護も重要であることに改めて気付かされます。

現状の問題は、情報の発信者側からすると曖昧で不当なクレームであっても、実際に情報が削除されたり、当該情報が検索エンジンのインデックスから削除されるといった事態が起こり得ることです。そもそも発信者と悪く書かれた側のどちらに正当性があるのかなど、プロバイダや検索エンジンの法務担当が判断する(すべき)問題ではありません(もちろん明白な使用規約違反や犯罪行為なら話は別でしょうけれども)。その判断まで(裁判所以外の)他人に全面的に押し付けてしまうようでは、「情報を発信する際の責任を放棄している」と非難されても仕方がないと言えます。

ですが、この種の問題がすべて司法の判断を仰ぐことなしに解決しないようでは、リソースが限られている弱者では到底太刀打ちできません。従って、自由な情報発信と内容的に悪く書かれた側の保護を両立させるためには、裁判の迅速化や敷居の高さを改善することよりも、まずは問題解決のための一定のルールを整備する方が効果的と思われます。つまり、プロバイダや検索エンジンに削除要求を行ったり、訴訟を起こしたりする前に当事者間で踏むべき手続きを、ガイドラインとして規定するというアプローチです。

例えば、クレームには以下の三点

  • どのような問題があるのか(無断転載や事実誤認、名誉棄損など)
  • どの部分が問題なのか(URLと具体的な記述内容)
  • その部分をどうして欲しいのか(情報の削除や反論の併記など)

を明確にして発信者に伝達することを義務として、クレーム後の対応期間もある程度(一週間程度)確保するという案が考えられます。で、その間に何も当事者が対応しないのであれば、情報の削除もやむなしとするような感じで(もちろんその間に発信者当人が自主的に削除するのもOK)。

このような仕組みを構築しないと、立場の弱い人/組織が安心して情報発信ができなくなってしまいます。結果として情報発信の表現や内容の自主規制ばかりが進み、本音のメディアとして既存メディアを補完する役割を持ちつつあったネットワークメディアを殺すことにつながってしまいます(むしろそれを望んでいる人/組織も結構多いのでしょうけど)。表現の自由(大げさ?)と情報(知識)の自由な流通を保護するためには、「情報発信することには責任・リスクが伴う」以前の問題として、発信者と情報を保護するための何らかの仕組みが必要なのではないでしょうか。

でも発信者が連絡先を公開していない場合はどうする?とか、当事者間の話し合いが適切に行われたことを証明する方法は?などと考えると、やっぱり思い付きレベルのアイディアではダメですね(反省)。とは言え、今後の社会を見据えると、いわゆるメディア規制法なんかよりもこの辺の話の方がよっぽど重要な気がするんですが...。

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